よりおいしく安全で、栄養効果の高い嚥下食を作るうえで、大きなメリットをもたらすのが「真空調理」です。
「真空調理」は、1974年にフランスのロアンヌで食肉加工業を営んでいた料理人ジョルジュ・プラリュ氏が、フォアグラの調理に利用したのが始まりとされ、1984年にパリの三ツ星レストランのオーナーシェフとして著名なジョエル・ロブション氏がフランス国有鉄道の列車食堂に導入したのをきっかけに、広く普及しました。
わが国では、1986年に、ホテルハイランドリゾートの洋調理長だった谷孝之氏が独自に開発し、フランス料理を中心に普及が進みました。そして、1989年、谷氏と当時聖隷三方原病院の栄養科長だった金谷節子の出会いがきっかけとなって、1990年代以降、病院や高齢者介護施設での導入が急速に拡がっています。
1)嚥下食づくりにおける真空調理の導入メリット
真空調理は病院や高齢者介護施設における食事サービスにさまざまな革新効果をもたらしましたが、中でも軟らかさをはじめとする微妙な物性の安定的な再現確保が求められる嚥下食調理においては、大きな威力を発揮します。
① おいしさや物性を安定的に再現
真空調理では、食材を外気をはじめとするさまざまな環境要素の影響を受けにくいフィルムの中に入れ、常に最適な温度と時間にもとづいて加熱調理を行うため、おいしさと物性の両面で最高レベルの品質を安定して再現・確保できます。
② 栄養価が高く、身体にやさしい食事を実現
真空調理法の場合、食材をフィルムの中で密封し、比較的低い温度で加熱するため、ビタミンや栄養成分の流出や破壊が少ない栄養価の高い食事を、風味豊かに仕上げることができます。
また、ほぼ100%に近い真空状態で調理・保存を行うことから、食品が酸化しにくく、生活習慣病や老化の原因要素とされる活性酸素の働きを抑制するため、患者さんや高齢者にやさしい嚥下食が作れます。
③ 二次汚染の危険性が少なく、食品衛生向上に貢献
真空包装した状態で、加熱・冷却・冷蔵(冷凍)保存などの調理作業をTT(温度・時間)管理にもとづいて行う真空調理では、食中毒細菌を確実に殺菌できるとともに、汚染された空気や手・指などが直接食材に触れる機会が少ないため、二次汚染の防止にも効果的です。
④ 塩分や糖分の減量をバックアップ
真空調理では、特に煮物や漬物・コンポートなどをつくる場合、真空包装する際にフィルムに入れた調味液が瞬時に食材の中心部位迄浸み込むため、塩分や糖分を少な目にした調味液でもしっかりとした味つけが可能です。したがって、塩分や糖分の制限が必要な患者さんや高齢者にも、おいしい嚥下食を提供することができます。
⑤ 軟らかく、見た目も美しいに料理に仕上げ
真空調理は、食材をフィルム内に入れて低い温度で加熱するため、食材内の水分蒸発が少なく、軟らかくて煮崩れのない美しい料理を作ることができます。そのため、食欲が衰えがちな患者さんや高齢者のための嚥下食調理には、うってつけです。
⑥ 計画調理により作業の効率化と個別対応を推進
真空調理では、提供日前の比較的暇な時間を使ってまとめて加熱調理を行い、最大6日間を目安に冷蔵保存(冷凍の場合は約1カ月が目安)しておいた食品を、必要時に再加熱して提供できるため、作業の効率化が図れます。
また、小ロット単位での調理・保存が容易なため、個別性の高い嚥下食などの機動的な対応には最適です。